少し前には考えられなかったことなんだけど

 僕の中でいつのまにか、それが当たり前になっていた



 今では考えられないんだ

 横に、君達が居ないことが





 18.While becoming aware keep changing.





 制服の重々しさが消え、ホグワーツの生徒たちは、休みに入る喜びを体中で表している。

 あちこちのコンパートメントから、歓声やら奇声やら、時折悲鳴が聞こえるが、今日はそれを咎める先生も居ない。

 窓枠に肘を掛け、遠いのどかな風景に目をやりながら、は薄く苦笑いを浮かべた。

「あ! てめっ! ジェームズ! それ俺のカボチャパイ!」

「なんだよケチくさいなぁ、ちょっとくらいいいだろー!」

「むぐっ・・・・・・」

「二人とも、ピーターが潰れてるって! ねぇちょっと! 聞いてる!?」

 の目と耳は今、正反対な状況を楽しんでいる。



「もー、シリウスー、一欠けらくらいあげたらー?」

 蛙の足を口から一本はみ出させたが、笑いながらシリウスの腕をぽんぽん叩いた。

「だってよぉ」

 ジェームズはジェームズで、リリーによよと身を寄せた。

「エバンスー、全くひどいと思わないかい? シリウスったら、これっぽっちのものも僕にくれないんだよー」

「ええそうね。分かったからもうちょっとそっちに寄ってくれる? ピーターが可哀相よ」

 リリーはピーターの為にジェームズを押しやり、僅かなスペースを開けた。

 リーマスを挟んだその隣を見て、声を掛ける。

「ピーター! 大丈夫ー?」

「なんとか、ね・・・・・・」

 息も絶え絶えなピーターは、僅かな隙間で首を巡らせ、リリーに向かって笑いかけた。

 そんな状況の中、カレッジはのん気に欠伸をした。

「いいねぇ、猫は小さな隙間に入れて」

 リーマスが笑って言う。

「小さな隙間っていうか、お前らとはもともとのサイズが違うからな」

 人間なら肩を竦めている感じで、カレッジは首を軽く傾けた。

 窓の外を、鳥が飛んでいく。

 は、ふとジェームズに目を向けた。

「クィディッチ立候補するって言ったけど、ポジション、どうするの?」

「ん? 僕?」

 大仰に自分を指差してから、ジェームズは腰に手を当てて悪戯っぽく笑った。

「もっちろん、シーカーに決まってるだろ?」

 リリーが宙に目を留める。

「えっと・・・・・・スニッチで百五十点獲れるポジションね」

「そうそう」

 最近ジェームズとにクィディッチ講座を延々と聞かされたリリー。

 頭に残ったポジションを引っ張り出して言ってみると、ピーターがそれに気付いて頷いてくれた。

 がからかう。

「最後のいいとこ持っていけるからでしょ」

「ばれたか」

 額に手を当て、ジェームズは笑った。

は?」

 リーマスが聞くと、彼女も胸を張って答えた。

「もっちろん、チェイサーだよ」

「なんで?」

 ジェームズは心から不思議そうに尋ねる。

 わざとらしく口に手をあてて、はくふふ、と笑った。

「たくさん飛べるからー。あとねぇ、なんかこう・・・・・・一番激しいでしょ、楽しそうじゃない?」

 ピーターが苦笑する。

「激しいって理由でポジション選ぶ女の子も、珍しいよね」

 だな、とカレッジがの膝の上で頷いた。

「シリウスはどうだ?」

 ずっと窓の外を見ていたシリウスに、カレッジが聞く。

 シリウスはちょっと変な顔をしてカレッジの方を向いた。

「あ、ああ、俺はキーパー」

「何見てたの?」

 リリーが一緒に窓の外を覗く。

 田園風景と青空以外、何も無い。

「ん? 何か変な感じがしたから」

「シリウスの変な感じって、よく当たるもんね」

 けれど、は笑う。

 見咎めて、リーマスが言った。

「でも、信じてなさそうだね」

 は肩を竦めた。

「だって、自分の勘のほうが当たるんだもん」

 みんながフンフンと頷く。

 シリウスが不当な対応に眉を寄せた。



 そんな彼の肩を叩きながらは窓の外に目を戻した。

 立派な梟が一羽、飛んでいる。

「あ、あの梟カッコイイ・・・・・・」

「どれどれ、あ、ホントだ」

 ジェームズも身を乗り出すが、すぐにリリーに服を引っ張られる。

「だから、ピーターが潰れるって言ったばかりでしょ」

 梟は、車両を捜しているようだ。

 ふらふらと行ったり来たりしている。

「誰かに梟便かな?」

 リーマスが言った時、窓の外を見たシリウスが立ち上がった。

 ピーターは驚いてシリウスを見る。

「ど、どしたの、シリウス」

 しかしそれには答えず、シリウスは梟を見たまま、言った。

、あれお前ん家の梟じゃねぇか」

「えー、うそー」

 が腰を浮かせる。シリウスは窓を開けて手を伸ばした。

 知っている顔を見つけ、梟はまっすぐ飛んでくる。

 足に括り付けられている手紙をとると、梟は一声鳴いてすぐに飛んでいった。

 シリウスが手紙をに渡す。

「ホラ」

 見ると、巻いてある羊皮紙を縛っている紐を、金色の蝋が留めていた。

 蝋は家の家紋である、ユニコーンとその血、そして上から下りている蔦をかたどっている。

「凄いわね、その手紙」

 リリーが感心して覗き込むが、は不思議そうに首を捻った。

「んー、急いでたのかなぁ」

「どうして?」

 が聞いた。

 手紙を外し、開きながら首を傾げる

「うん、この蝋燭捺すのはパパなんだけど、コレに対してはすっごく几帳面だから。

いつものと比べるとちょっと今日は・・・・・・」

 暫くウィリアムからの手紙に目を落としていたが、突然息を呑んだ。

 不安そうにシリウスの顔を見上げる。

「え、どうしたの?」

 ジェームズが二人を交互に見ながら問うが、シリウスは訳が分からず肩を竦めた。

「なんて書いてあったの? 

 リリーが心配そうに聞く。

 無言で、は手紙を差し出した。

 一瞬、誰がそれを取るかで沈黙が流れたが、結局全員の視線を集めたシリウスが、手を伸ばした。

 手紙を受け取り、読み上げる。





  『積もる話はたくさんあるだろうが、ひとまず落ち着いて読んでほしい。



   ついさっき、わたしが魔法省に出かけている間に、屋敷が襲撃された。

   襲撃といっても家の半分が壊されたくらいだ。

   家には使用人たちが居たが、全員無事だ。心配は無い。

   悲観する理由はどこにもないし、すぐに屋敷も建て直せるだろう。

   問題なのは、寝る場所が無いことだ。

   駅にはジョンが迎えに行っている。

   今日は取り敢えず、二人で漏れ鍋に泊まってくれ。

   時間が出来たらわたしもそっちに向かう。

   そこから先は、会った時に追って考えよう。
  


   返事はいらない。

   もし―――万が一だが―――駅にジョンが居なかったら、その場を離れないように。

   友達に梟を借りて、わたしではなく、校長先生に手紙を書きなさい。

   話はつけてあるから、先生の指示に従って、安全に行動してほしい。



   くれぐれも気をつけて。

   今晩、漏れ鍋でお前の話が聞けることを願っている。



   へ   お父さんより』





「襲撃・・・・・・?」

 リリーが青ざめた顔で呟いた。

 その視線の先には、幾分か落ち着きを取り戻したが。

「あー、うん。そうみたいだねぇ」

「あー、うん・・・・・・って、大丈夫なの!?」

 今度はジェームズが大慌てで聞いた。

 けれどそれ以上のボリュームでピーターが抗議の声を上げる。

「ジェームズ! 僕潰れる! ねぇ僕潰れるぅ!」

 はそれを見て笑った。

「あはは! 大丈夫だよぉ、パパが心配ないって、言ってるから。

ねー、シリウス」

「そうだな」

「頼れるお父さんだね」

 リーマスが優しく微笑んだ。

 ぱっと花が開いたように、は笑う。

「うん!」

 ジェームズが悲鳴を上げた。

 見れば、リリーに耳をつままれている。

「だから! ピーターが潰れるって言ってるでしょ!」

「いたたたた! ごめんなさい、いやもうホント! 放してください!」

「私じゃなくて、ピーターに謝りなさいよ」

 漫才をやっているかのような二人に、みんなが笑った。

 もお腹を抱えて笑う。

 そんな彼女の袖を、が引っ張った。

 は小首を傾げた。

「うみ? なぁに?」

「ほんとに、大丈夫?」

 はっとした顔で、を見た。

―――嘘を、つけない。

 の前で、気持ちに嘘はつけない。

 今までに一度も見せた事の無い落ち着いた笑みで、彼女は笑った。

「うん、平気」





―――綺麗だ―――





 その笑顔に、は言葉を失う。

 無邪気で何も考えていないような普段の笑顔からは、想像も出来ない。

 がもう一度に視線を戻すと、彼女はもういつもの顔で笑っていた。

 どうやらあれは一瞬の出来事だったようだ。



「どうしたよ」

 カレッジがニヤニヤしながら、に言った。

「顔、赤いぜ」

「なっ・・・・・・そんなことっ」

 さっと顔を赤くして、が小さく反論の声を上げる。

 六人は大騒ぎをしていて、二人の声には気付かない。

 カレッジは軽く尻尾を振った。

「変わったな、随分」

「何が?」

「お前が、さ」

 は不思議そうにカレッジを見た。

「そうかな、僕は僕だけど」

「そりゃあそうだ」

 喉を鳴らして笑うカレッジ。

「大丈夫そうだな、こんなに人が居るのに」

「あぁ・・・・・・」

 はコンパートメントを見回す。



 いつもは堂々としているのに、なぜか今は腰が低くなっているジェームズ。

 ジェームズを楽しそうにからかうシリウスは、カボチャパイの最後の一欠けらを口にする。

 原因であるリリーは、腰に両手を当ててジェームズを睨んでいる。

 ピーターは彼女の腕を押さえて落ち着かせようと奮闘中だ。

 ジェームズのヘルプの視線を受けながら、リーマスは微笑んでいるだけで何もしない。

 は大笑いしながら、リリーにエールを送っている。



「だって、みんな楽しいんだもん」

「いいことだ」

 目を細めて、は笑った。







 ホグワーツ特急が駅で汽笛を鳴らした。

 魔法の柵を通って、生徒たちはそれぞれの両親の駆けていく。

 七人が汽車を降りると、丁度そこに金髪の青年が立っていた。

「お嬢さま、ご無事でしたか」

「ジョン!」

 は思い切り飛びついた。

 そしてみんなを振り返る。

「あたしここから帰るね」

 まるで妹を見るような眼差しで、リリーはを見た。

 二人はぎゅっと抱き合う。

「気をつけてね。ほんとに」

「心配性だねぇ、リリーは。大丈夫だってばー」

 ジェームズが思いついたように声を上げた。

「もしみんなのスケジュールが合ったらさ、ダイアゴン横丁で会おうよ!」

「いいね、それ。賛成」

 リーマスが真っ先に手を上げる。

「それ、僕も行っていいかな・・・・・・?」

 おずおずとピーターが言った。

 がその背を軽く叩く。

「当たり前だよ。僕も行くから、カレッジ、付いてきてね」

「おう。リリーも来るだろ?」

 カレッジに促され、リリーは頷いた。

「行かせていただくわ。シリウスは?」

「勿論、行くさ。家になんか居られねぇよ。、来れるか?」

 はジョンを仰ぎ見る。

 安心させるようにジョンは頷いた。

「ご自由に」

 やった! と小さくガッツポーズをして、は顔を上げた。

「行く行く! やったー!」

「それじゃあ決まりだ。みんな開いてる日を僕に教えて。予定立てて、知らせるよ」

 皆が、言いだしっぺのジェームズに予定を言っている間、シリウスはを引き寄せた。

「ほに?」

「寝る場所無ければ、泊まりに来い」

 真剣に言われて、は不謹慎にも吹き出した。

「なんだよ」

 少し怒った声のシリウス。

 は笑いながら行った。

「だってシリウス、家がつまらないから呼んだとか、そんな理由でしょ」

「あのなぁ」

「あはは! 図星だー」

 その様子を、ジョンが微笑んで見ていた。




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